本阿弥 光悦(ほんあみ こうえつ)は書画や陶芸、作庭などに通じていた江戸時代初期ののマルチクリエイター。プロデューサー。
光悦は由緒正しい刀剣鑑定の家に生まれたのだそうだ。
刀剣と一括りにいっても実はたくさんの工芸パーツで出来ている。鞘(さや)や鍔(つば)などのパーツはそれぞれの職人の緻密な仕事で生まれる工芸品だ。つまり刀剣とはそれらを集積したアートオブアート。その総合芸術品鑑定を生業としていたわけだから、クリエイティブに関して多面的、かつ高い感度を持っていたのはごく自然なことだといえそうだ。
その光悦が円熟の50オーバーで手がけた「鶴図下絵和歌巻」は、かの俵屋宗達との共作による重文指定の絵巻である。俵屋宗達といえば風神雷神図屏風を描いたあの人。スーパークリエイターによる江戸のコラボ作品だ。
空を舞う宗達の鶴、それを大胆にも下地にして踊る光悦の書。
絵の上に書があるのだから、一見「書」としての作品なのかなと思うけれど、13メートル超の横長のキャンバスをダイナミックに使って描かれた鶴の飛翔や休息の姿はドラマチックで単なる背景画以上の存在感がある。光悦はそれにただ筆を入れたのではない。あくまで鶴の姿、動きに合わせてリズミカルな書を入れているのだ。書画一体となった、まさに「コラボ」なのである。
例えば上の構図では、ボールドの書体が下地の鶴の動きに合わせて配置されているのがわかるだろう。書を読みながら(読めないけど)ボールドの字を追っていくと、鶴もそれに付いてくるという演出。そして大きなマージンがとられた下の構図では細く流れるような書が漂っている。絵に寄り添うような形で書が流れていくのだ。
かつて若手実力派であった宗達を見出し、チャンスを与えたのが光悦。つまり宗達にとっては大恩人との企画ということになる。キャリアを重ね画家として大成した宗達の、大恩人との仕事、というふうにも見ることができるだろう。
当時最高のクリエイターによるこの美しい融合は、深い信頼関係があったからこそ生まれたものといえるかもしれない。
●鶴図下絵和歌巻|京都国立博物館
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