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2013年11月18日

「リアル脱出ゲーム」のUX

「リアル脱出ゲーム」というのは、株式会社スクラップが提供する参加者体験型イベント。開催場所は東京ドームや幕張メッセという大箱からマンションの一室まで様々で、イベント参加者は開始早々有無をいわさず“閉じ込められる”。制限時間内に様々な問題を解き、“脱出”を目指す、というものだ。



僕は体験型イベント事業の成功例として参考にするため、何度かこのイベントに参加している。初めての参加から2年近くになるが、規模は徐々に大きくなっており、凝った演出も見られるようになったが、基本的な謎解きのパターンはどれもほとんど同じだ。言ってしまえば、普通のパズルゲームに、毎回異なる「脱出」の演出を着せただけなのだが、毎回多くの参加者を集める人気ぶりには驚かされる。

このイベントがなぜ人の心を捉えるのか考えてみた。


●体験の約束
このイベントに共通しているのは、制限時間内に目的を達しないと「生死に関わる」という演出設定だ。問題が解けないと死ぬ、のである。じゃあそれが、本当の意味でスリルを演出しているかというと、実はそうではない。
「脱出」という演出は、いわば「取っ掛かり」である。イベントの本質はパズルゲームだが、このキーワード一つあるだけで、体験型イベントとして期待値が全然ちがう。パズルという「実」に「脱出」の2文字を付加することによって、イベント参加者への「体験」を約束しているのである。広告グラフィックやストーリー設定もパズルゲームとしてはかなり作りこんだものだ。


●共感・間合い
イベント演出上は「危機的状況」であるが、真顔で「地球を救うのはあなたです」などと司会は言わない。言ってしまえば興ざめである。どこか、「わざとらしさ」が漂う司会は、参加者の大半が大人であることを意識していることの裏返しだろう。ベタな演出であることを参加者と暗に共有し笑いに変えてしまうことで共感を得ているのだ。大人が楽しめるエンターテイメントとして、適切な間合いのとり方を心得ているように思う。


●果実
パズルは簡単ではない。紙の上の記号を並べたり、それらを俯瞰したり、提示されたヒントを念頭に置いて多角的な視点で臨まないと完全なクリアはまず期待できない。最後の解説などを聞くともはや「奇問」にも思えてくる。しかし事実クリアしている参加者はいるわけだし、特殊な知識が必要かと言えばそうでもない。手が届きそうで届かないところに「クリア」という果実がある。簡単に達成もさせず、また失望もさせない絶妙な難易度設定も、リピーター創出に一役買っているのではないか。


シンプルなゲームながら、多くのファンを作った「リアル脱出ゲーム」。
人を集め、共感を勝ち取って次に繋げる手法は非常に参考になる。