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2013年7月23日

「風立ちぬ」は宮崎駿の闘魂注入



「風立ちぬ」を観てきた。
良い映画だった。
「千と千尋の神隠し」にもあった、「働く」が、
本映画にもテーマとして大きく横たわっていた。
そしてそのメッセージは今回、明らかに大人に向けられていると思う。


「千と千尋の神隠し」から発せられるメッセージは、
働け」だった。

わがままな女の子が、突然異世界に放り込まれて、
不条理なルールの中で「仕事」をせざるを得ない状況から、
仕事を通して信頼を獲得し、その信頼を武器に目的を達成するというストーリーだ。

仕事は手段であり、目的ではない。
そのプロセスは良いことばかりではないが、決して悪いものじゃない。
働かなければはじまらない。だから働け。と。
若い世代に向けられた、宮崎駿渾身の説教映画だと思う。



一方、「風立ちぬ」は、「働こうぜ」という感じだ。
様々な見方があるかと思うが、
「働く」ことそのものがポジティブな描かれ方がされている。

全編を通して描かれているのは、少年の頃から続く主人公の夢である。
夢を追いながら、世の中が変わり、愛する人が現れるが、
それらはあくまで夢の実現プロセスにおける伏線でしかないように見えた。

ちなみに、まさかの声優として出演となった庵野秀明は確かに、
大ブーイング必至の見事な棒読みであった。
しかし、何が起きようとも夢追う少年の、ある種の「鈍感さ」を
表現しているといえば、「アリ」なんじゃないかと思ってしまう。

ともかく、戦後日本の奇跡的な復興を支えた、
さあ生きて、働こうぜ、という、がむしゃらな生きる力が、
宮崎駿には、まぶしいほどに美しいのだろう。
元気の無い働く日本人への、闘魂注入映画といったところだろうか。


「風立ちぬ、いざ生きめやも」
多くの人にとって、この文語表現は理解が難しいものではないだろうか。
これは、もはやリアリティの感じづらい、遠い過去の話であることの
裏返しなのかもしれない。

あらゆる出来事が、一陣の風と共に吹き去っても、
それでも生きねば。生きようではないか。

古びた石碑に書かれたような言葉には、そのような意味があるそうだ。